一度大きく深呼吸をして真っ直ぐ前だけを見据える。
そして、曲がり角を曲がった瞬間、勢いよく走り出した。
ただひたすらに走って細い路地に飛び込み、息を殺して稲葉君がいなくなるのを待つ。
1分、2分、3分……。
5分ほど待っていたものの、男の子が路地にやってくる様子はない。
「よかった……逃げ切れた……」
ホッと息を吐き出した時、ポケットの中の携帯が震えているのに気が付いた。
「誰だろう……」
さっきまで走っていたから全然気が付かなかった。
「あっ……」
【星哉 090-××××-××××】
そこには星哉の名前が表示されている。
ディスプレイに映し出される名前にほんの少し動揺しながらも、あたしは通話ボタンを押した。



