「桃華、愁太に俺のこと聞いてない?」
「愁太にヒロちゃんのこと?ううん、全然」
「……――そっか。ここのバイトの紹介を愁太にしたの俺なんだ」
「そうなの?」
確かに愁太はラーメン屋さんで何かを言いかけていた。
もしかしたら、このバイト先にヒロちゃんがいると伝えたかったのかも。
「あぁ。まさか桃華が愁太の代わりに来るなんて思ってもみなかったけど」
ヒロちゃんはそう言いながら、あたしに右手を差し出した。
「ん?」
「携帯、貸して?」
「えっ?あっ……うん」
言われたとおりに携帯を渡すと、何やら操作し始めたヒロちゃん。
「俺の連絡先登録しといたから」
「えっ?あっ……うん」
あまりの早業に面食らう。
ヒロちゃんはきっと、今までもこうやっていろいろな女の子と連絡先を交換したに違いない。
昔の無口なヒロちゃんを今はもう想像できない。



