さっきまで……あんなに楽しかったのに。 それなのに、今は嘘みたいに暗い気持ちになって胸が張り裂けてしまいそうなほど痛い。 『お前に嫌なことをされた覚えはない』 狼谷君は確かにそう言った。 それが本当だとしたら、考えられるのはあの人……――。 進学校の制服を着た真面目そうな黒髪の男の子。 確か、狼谷君は『稲葉』と呼んでいた。 稲葉君が現れた瞬間、狼谷君の全身から殺気を感じた。