「トリトマ…。分かってるだろ?」
ついに、一人の男が口を開きました。
その声は、深く暗く、怒りに満ちています。
「この町の、しきたり。一人、逃げるつもりか?」
町に緊張感が走ります。
触れてはいけない悪習。
「一つは許されないんだよ。」
町中の空気がピリピリとして、人々は動けません。
嫌な空気、不安定ながらも長年保たれてきた町の悪習。
皆、見て見ぬふりをしてきた触れてはいけない部分が、徐々にもれだしているのです。
男はトリトマの、すぐ近くまで行き問います。
「分かってんだろ?トリトマ…。」
ゆっくりと、トリトマの肩に手を伸ばします。
トリトマは、男の顔を無表情で見つめ、そして、話し出しました。
「あぁ、わかってるさ。」
男がトリトマの肩に手を乗せます。
トリトマは、医者を離してやりました。
医者は、トリトマを見つめ不安げな表情です。
「一人は駄目なんだろ?」
トリトマは、男の方に体を向け話します。
「だから、この町は一つのものがない。」
町中の人々は、下を向き、静かに聞いています。
「つまり、俺も存在しちゃいけないって訳だ。」
一気に、町が暗く鋭い空気が充満し、何人かは、その場から逃げ出すように帰っていきます。
女達は泣き、男達も目を力無く目をそらしています。
トリトマは、悲しそうな表情になり言いました。
「俺は、この町で産まれたんだ。でも…、でも、仕方ないよな。しきたりだ。」
トリトマの肩に手を乗せていた男も、トリトマから目をそらしてしまいました。
医者は酷く落ち込み、目に涙をためています。



