ドクン…、ドクン…。


自分の心臓の音だけが聞こえる静寂。


固唾をのんで見守る人々。


嫌な緊張感。


医者は、こんな状況は初めてで、手の震えがとまりません。



ゆっくりと、倒れている男の体に手を伸ばします。


体に触れると、まだ柔らかく、死後それほど時間がたっていない事が分かります。


力をいれ、体を支えながら仰向けに寝かせました。



その顔は、間違いなくサフィニア。


目を閉じ、口を少し開き、安らかな表情で、まるで眠っているかのようです。


しかし、その肌は青白く、唇も血が通っていないのが分かります。


口元に耳を近づけても、無音。


息をしていません。



「トリトマ…。サフィニアは苦しまずに逝けたわ。」


医者は、トリトマに慰めの言葉をかけます。


トリトマは黙ったまま、しかし、苦しそうな辛そうな表情です。


そんなトリトマの表情に、医者は悲しくなります。



「外傷がないか…。体を触らせてもらうわね?」



医者はトリトマに確認します。

トリトマは何も言わずに、医者を見つめたまま。


医者は、トリトマから目をそらしてサフィニアを見ました。


体を触る事に躊躇している医者に、町の人々は苛立ちます。


「早くしろ!!何を、ちんたらやってんだ!?自殺なのか!?他殺なのか!?」


その怒鳴り声に、医者は驚き、すぐにサフィニアの体を調べだしました。


町の人々の苛立ちの声は続きます。


「やっぱり、トリトマが殺したんだな!?そうだろ!?おい!早く、言え!!」


苛立った男の声に、医者は恐怖を感じ涙が出てきます。

震えた手で、慌てながらサフィニアを触ります。


「医者のくせに!どれだけ時間が、かかるんだ!?トリトマが殺した!それで良いな!!」


涙を流しながら医者は、必死でサフィニアをみます。

頭、顔、体、手、足…。


ほとんどパニックに陥っていた医者が、サフィニアの首を触った瞬間。


「きゃーーーーー!!!」


激しい医者の悲鳴。


町の人々も、思わず黙ります。


しかし、トリトマは違いました。



医者を、強く抱きしめたのです。



この光景に、皆は驚愕してしまいます。