おいでよ、嘘つきさん。

メリッサは家に急いで帰りました。コマデリのつけ髭を、作らないといけないからです。
向かいの女性が「魔法使いさん！おかえりなさい！」と叫んでいます。
メリッサは「ただいま！」と答えると、すぐに家に入りました。


家に着き、さっそく机に向かいました。
コマデリの髪はクルクルなので、少しくらい失敗してもごまかせそうです。
針と糸と黒の布を取り出し、縫い付けていきます。
しっかりと髪を束にしないとパラパラ落ちてしまうのでメリッサは集中しました。
やっと形になり、時計を見ると２２時です。

「つけ髭を作るのに、４時間もかかったわ」
メリッサは伸びをしました。出来上がった、つけ髭を自分につけて鏡で見てみました。
クルクルの黒い小さな髭を、鼻の下につけている赤髪の女の子が鏡に映っています。
メリッサは、１人で大笑いしてしまいました。
「変なの！明日はコマデリが髭をつけるのよね。笑っちゃうかも！」

笑いがおさまると、明日の事を考えました。
「ついに明日、この町を出るのね」

「食料品店の店主さんは、私に違う店を案内しなくて済むわね」

「警察官は、私との約束の時間に悩まなく済むわ」

「向かいの女性は、私が魔法で消えたって騒ぐんだろうな」

「まぁ、気が向けば帰ってくれば良いだけよ」

メリッサは色々と考え、忘れ物はないか見直すと眠りにつきました。


翌日、いつも通りの時間に目覚めたメリッサは窓から空を見上げました。
いつもと一緒で、どんよりとした灰色の空でした。
「良い天気ね。雨が降らなくてよかったわ」

この町は雲っているのが当たり前です。
メリッサは起き上がり、身支度と掃除をしました。
荷物も確認し、準備は完璧です。時計を見ると１３時、コマデリとの約束まで時間もあり、暇なのでお菓子を作る事にしました。
余っている材料を使い切るつもりです。

小麦粉と砂糖と卵を混ぜ、フライパンで焼きます。
甘い香りのパンケーキです。
どんどん焼いていくので、３０枚も出来上がりました。

「コマデリに食べさせて、２０枚は向かいの女性にあげよう」
コマデリは箱の中に、冷めたらパンケーキを重ねていれました。