とりあえず、屋敷の中をふらふらと彷徨い歩く。
なんせ広い屋敷なので下手したら自分の居場所が分からなくなりそうだが、仕方ない。
ユウレイさーん、と心の中で呼びかける。
改めて屋敷中を見渡せば、いたるところに絵が飾ってあった。
中世ヨーロッパの宗教画みたいなものもあれば、繊細な筆致で描かれた日本画もある。
絵のことなどまるで分からないが、とりあえず素人目にはどれも芸術品だ。
有名な絵のコピーなのかな、と思って近寄ってみるが、印刷のものは一つもない。
礼太はいつの間にか幽霊探しより絵の方に夢中になっていた。
ふと、淡い色の水彩画に目が吸い寄せられ、立ち止まる。
海だ。
穏やかに揺れる水面が、昼の太陽にきらきらと煌めいている。
キレー……だ。
ひたすら優しい絵なのに、どこか切ない。
人の手で創られた何かに、これほど心惹かれるのは初めてだった。
「それ、気に入ったの」
ふいに横から声が聞こえて、礼太は軽く飛び上がった。
見れば奈帆子が、腕を組んで立っている。
顔は無表情だが、不機嫌には見えない。
「はい、すごく綺麗だなって。……絵のことは、よくわかんないですけど」
すごく優しい気持ちになる。
そう言うと、奈帆子の口元に、微かに笑みがよぎった。
「そう、気に入ってくれてなにより。欲しいならあげる」
「……はい?」
予想外のことを言われて一瞬ぽかんとしたが、慌てて手を横に振った。
「いえ、そんなつもりじゃ。めっそうもありません。僕が貰ったって……」
どんなに心動かされても感想が『きれい』しか出てこない自分が絵を貰ったってどうしようもない。
宝の持ち腐れだ。
それを一生懸命伝えようとするがなにぶん語彙不足でしどろもどろと要領を得ない。
しかし奈帆子は礼太が何を言いたいのか察したらしく、皮肉っぽく笑って言った。
「そんなすごいもんじゃない。絵なんて、描くやつの自己満で七割は完結してるんだから、あとの始末なんて適当でいいのよ、適当で。この水彩画小さいから、あんたの持ってきた鞄の中にも入るでしょ」
ずいぶんと投げやりな言い方をする。
なんて返して良いかわからず沈黙した礼太に、奈帆子はかまわず続けた。
「愛でてくれる人がいるなら、それにこしたことはないけどね」
だから、あんたがこの絵を気に入ってくれたのならあげると、奈帆子はなおも言った。
気に入ってくれた、という言い方がふと引っ掛かり、おずおずと尋ねる。
「あのぉ、この絵って、奈帆子さんが描いたんですか」
「そうよ。」
礼太はその不思議にうたれた。
このキツイ奈帆子から、どうやったらこんな優しい絵が生まれるのだろう。
目の前のガキンチョがそんな失礼なことを考えていると知ってか知らずか、奈帆子は眉をつりあげた。
「……なんか文句あんの」
「ない、です」
やはり、この人はおっかない。
なんせ広い屋敷なので下手したら自分の居場所が分からなくなりそうだが、仕方ない。
ユウレイさーん、と心の中で呼びかける。
改めて屋敷中を見渡せば、いたるところに絵が飾ってあった。
中世ヨーロッパの宗教画みたいなものもあれば、繊細な筆致で描かれた日本画もある。
絵のことなどまるで分からないが、とりあえず素人目にはどれも芸術品だ。
有名な絵のコピーなのかな、と思って近寄ってみるが、印刷のものは一つもない。
礼太はいつの間にか幽霊探しより絵の方に夢中になっていた。
ふと、淡い色の水彩画に目が吸い寄せられ、立ち止まる。
海だ。
穏やかに揺れる水面が、昼の太陽にきらきらと煌めいている。
キレー……だ。
ひたすら優しい絵なのに、どこか切ない。
人の手で創られた何かに、これほど心惹かれるのは初めてだった。
「それ、気に入ったの」
ふいに横から声が聞こえて、礼太は軽く飛び上がった。
見れば奈帆子が、腕を組んで立っている。
顔は無表情だが、不機嫌には見えない。
「はい、すごく綺麗だなって。……絵のことは、よくわかんないですけど」
すごく優しい気持ちになる。
そう言うと、奈帆子の口元に、微かに笑みがよぎった。
「そう、気に入ってくれてなにより。欲しいならあげる」
「……はい?」
予想外のことを言われて一瞬ぽかんとしたが、慌てて手を横に振った。
「いえ、そんなつもりじゃ。めっそうもありません。僕が貰ったって……」
どんなに心動かされても感想が『きれい』しか出てこない自分が絵を貰ったってどうしようもない。
宝の持ち腐れだ。
それを一生懸命伝えようとするがなにぶん語彙不足でしどろもどろと要領を得ない。
しかし奈帆子は礼太が何を言いたいのか察したらしく、皮肉っぽく笑って言った。
「そんなすごいもんじゃない。絵なんて、描くやつの自己満で七割は完結してるんだから、あとの始末なんて適当でいいのよ、適当で。この水彩画小さいから、あんたの持ってきた鞄の中にも入るでしょ」
ずいぶんと投げやりな言い方をする。
なんて返して良いかわからず沈黙した礼太に、奈帆子はかまわず続けた。
「愛でてくれる人がいるなら、それにこしたことはないけどね」
だから、あんたがこの絵を気に入ってくれたのならあげると、奈帆子はなおも言った。
気に入ってくれた、という言い方がふと引っ掛かり、おずおずと尋ねる。
「あのぉ、この絵って、奈帆子さんが描いたんですか」
「そうよ。」
礼太はその不思議にうたれた。
このキツイ奈帆子から、どうやったらこんな優しい絵が生まれるのだろう。
目の前のガキンチョがそんな失礼なことを考えていると知ってか知らずか、奈帆子は眉をつりあげた。
「……なんか文句あんの」
「ない、です」
やはり、この人はおっかない。


