優しい爪先立ちのしかた


いつかの栄生を思い出した。

何にも興味が無い、という顔をした栄生。まだ話もあまりしなかった頃。

「あたしも行くよ」

カナンは優しい。

残酷的に、優しい。

カナンの諦めていることは、この街から出ることではない。

この天性の優しさを、どこかに棄ててしまうことだ。




深山コロッケに戻ると、カナンの母親が栄生の姿を見て口を開いた。

「さっき、電話があってね。心配かけてごめんなさいって、少し外の空気を吸ってきますって…」

後ろからカナンの父親が帰ってきた。無言で首を振る。

「あの子は…昔から後先考えないで動く所があるんです…すいません、こんな時間まで。ありがとうございます」



梢と栄生は並んで屋敷に帰る。