優しい爪先立ちのしかた


入院した時、カナンも見舞いに来てくれた。その時と同じ顔をしている。

これは八つ当たりだ。

海外で手術なんて冗談じゃない。確かにそう言ったのは自分だ。比須賀の家にそんな大金があるわけがない。

ただ単に、自分が陸上を諦めれば良い話だ。歩けないわけじゃない。生活に支障も出るけれど、慣れればそんなこと平気だ。

そう思っていたのは比須賀本人だけだった。

「ごめん、深山には関係ないよな」

あはは、と笑う声が乾いている。カナンは無言で首を振った。

周りからの憐れみの目が、背中に張り付く。
ここに居る限り、ずっと。

「ただ、深山もさ。本当はこの街から出ていきたいんじゃないかって、少し思ったから。八つ当たりなんだ。本当にごめん」

するり、と手が離れていく。

ダメだと思ったのはカナンの方。

このまま離してしまったら、比須賀は一人で。
一人ぼっちで、この街を出て行ってしまう。