優しい爪先立ちのしかた


そのことに校長が涙したことを、誰が忘れることが出来よう。

「集会で泣いちゃってたね、校長先生」

「最後の方何言ってたか分かんなかった」

集会終わりにカナンは比須賀に話しかけた。

二人で笑い合ったその日の夜。
丁度、今から三年前の夏。

引退試合前、比須賀は飲酒運転の事故に巻き込まれた。

目を覚ました時、比須賀は街で一番大きい病院の個室のベッドの上に横たわっていた。

微かに足に感じた違和感に、気付かないはずがなかった。何日か、体を動かさないだけでも重くなったと感じている。

「生きてて、良かった……!」

大袈裟だなあ、と笑えないほど、母親が泣いていた。主治医の声が聞こえる。

「海外に手術できる先生と知り合いなんだ。もし良かったら、」




カナンの不安そうな顔を見て、比須賀は彼女の手を握った。