優しい爪先立ちのしかた


それでも頭の中は『羨ましかった』という言葉の真意を考えた。

自分のどこに羨ましい所があるんだろうか。

「好きなことやって過ごしてるところとか、この街を別に嫌いじゃないところ。同じ場所で育ったのに、何が違ったんだろうってたまに思った」

少しだけ、分かった。

「俺は、もうこの街には居たくない」

比須賀はこの街が嫌いなこと。好きなことが出来ないこと。

そして、真反対のカナンをずっと意識してきたこと。





中学生の比須賀は、陸上部に所属していた。

頭もそれなりに悪くはなかった。

三年になって、エースだった彼は部長を任される。因みにその時の副部長はカナンだ。

何年ぶりかに、団体と個人で全国までいった。確か、顧問が出たのが最後だと聞いたから、およそ20年ぶりくらいか。