優しい爪先立ちのしかた




カナンが昇降口でローファーに履き替えていると、向かいの靴箱が開かれる音がした。

「なんか、最近よく会うよね」

「確かに。部活お疲れさん」

肩に掛かったエナメルバッグを見て、比須賀が微笑む。

二人の帰る方向は同じで、必然的に一緒に帰ることとなった。

「いつもこんな時間に一人?」

「うち商店街だから、同じ方向の人少ないんだ。比須賀は? 下校時間まで何やってたの?」

「勉強」

その言葉に強い力で全身を撃たれた気がした。

部活少女でも今年は受験生。予備校行かなきゃ、と栄生には言ったものの、何も考えていないカナン。

「深山はコロッケ屋継ぐの?」

「うーん…そうだなあ。よく言われるけど、考えたことないんだよね。親はしたいことしてからしなさいって言ってたけど」

けど?

比須賀の歩調に合わせる。