優しい爪先立ちのしかた


平屋だが、敷地面積が大きい。
女一人で住むには大きすぎる。

外に倉庫があって、錆びついた扉を無理やり開けると、きちんと道具一式が揃っていた。

鎌を見つけて持つ。ワイシャツの袖を捲って桜の樹に近づいた。

「何するの?」

先ほどと同じ格好で本を読んでいる栄生が梢を見る。

「雑草を刈ろうかと」

そう言うと、少し顔を輝かせた栄生が本に栞を挟んで閉じた。

「私もやる」

「いや、いいです。お嬢さん、鎌どころか包丁も持ったこと無さそうなんで」

「鎌はないけど包丁はあるもの。だからやりたい」

精一杯手を伸ばしたけれど届かなかった栄生は不満そうに諦めて、桜の樹の下に座った。

少し風が吹くとハラハラと散っていく。それが儚く見えるのは、日本人ならではの感性。