優しい爪先立ちのしかた


本に指を挟んだまま梢を見上げる。

「今回は俺の推薦もついてる。じゃあ、今日からだから、仲良くしろよ」

「別に居なくても大丈夫だって、本家に連絡した筈なんですけど」

「自分で撒いた種ってのもあるだろ。ちゃんと本家と俺の顔も立ててくれよ」

じゃあ、と言っただけ言った嶺はひらりと手を振って玄関へ帰っていく。間に挟まれた梢は動かずに、ただそれを見ていた。

栄生は嶺の背中を追いかけはしない。

嶺と栄生の母親は違う。

この界隈ではよくある話だ。

「好きな部屋使ってどうぞ」

「はい」

「好きに暮らして良いけど、本弄るのだけはやめて」

はい、と事務的に答えた梢は庭先に目を向けた。

桜の花が満開。その下に雑草が目立って、あとで刈ろうと決めた。