壱ヶ谷梢がこの屋敷に来たのはちょうど一週間前。
「初めまして」
玄関で呼んでも出てこない栄生は、縁側で寝そべりながら分厚い本を読んでいた。
こんなところに居るなら玄関の声も聞こえた筈だろうと思ったが、それを口に出すのは辞めた。
「…どちら?」
訝しげな顔を向けた栄生の質問は、梢に向けられたものではなかった。
「壱ヶ谷梢。こっちが栄生だ」
はな、と紹介された栄生はきょとんとした顔を梢の後ろに来た義理の兄である嶺に向ける。名前を聞いているわけではない。
勿論、その意図が分からないはずもなく、嶺は梢の肩に手を置く。
「今日からお前の生活全般の世話係」
「…また?」
少しだけ顔を顰めた栄生は立ち上がった。



