優しい爪先立ちのしかた


タオル貰ってくる、と滝埜が噴水を離れた。

別に必要ない、と言う前に背中を見せて行ってしまう。

赤い靴を掴んで、杏奈に渡した。心配した顔の杏奈はありがとう、と小さくお礼を言った。

その時、大人の集まる方がざわめいた。

それにいち早く気づいたのは栄生で、その視線の先を追った。

自分のことだろうか、と思ったが、こちらではなく旅館の入り口付近に向いている。

その人物の姿が見えた時、目を見開いた。

何故、ここに。

派手な髪色は氷室の誰より目立っている。それに全ての視線が向いて、栄生が噴水の中に居ることに誰も気づいてはいなかった。

もちろん、呉葉の視線もそちらに。

梢が潰れてしまう。

不意にそう思った。