人を座椅子代わりにしていた彼女は、結構この男と似通っているところがある気もする。
「じゃねえよ、んなこと知ってんだよ。栄生の近くにお前が居なかったからこうして来たんだろうが」
「そんなことの為にさっさと帰ってきたんですか」
「ちげーよ、さっさと帰ってきたのは。愛人の子供の顔なんて長く見てたくねえだろ。自分の誕生日に」
灰を落とす。梢はぼんやりとしていた焦点を嶺に合わせた。
旅館の中は静かだ。梢と嶺以外に人が動いていないかのように、足音すらしない。
そういうこと、この人もきちんと考えて生きているらしい、と他人のことを他人事みたいに捉えた梢。
それくらいが丁度良い。嶺は勝手に決め付けられるのを嫌うし、梢も自分じゃない人間の生き方をとやかく言うことは好きじゃない。



