きっと、もうあの頃の栄生は返って来ない。

今、梢の目の前で笑う栄生を誰も壊すことは出来ないだろう。

「梢はね、聖がゴールデンレトリバーみたいだって言うから、茶髪を想像していたんだけど。違ったね」

梢の黒髪に手を伸ばす。

静かに撫でられている梢は、やはり大きな番犬のようで、どこか面白い。

「栄生さんが言うなら、染めます」

「そんな、本当に犬みたいに言わないでよ。冗談だよ?」

「いえ、俺は栄生さんの為なら喜んで死にます」

冗談には取れない瞳をした。

伸びた髪の毛を風が靡かせる。栄生はきょとんとした。

波の音。鳥が鳴く音。自分の呼吸する音。

「じゃあ私も、梢の為なら喜んで死ぬから」

だから、と続ける。