優しい爪先立ちのしかた


梢は渋々という感じで扉を開け、呆れた様子の嶺を迎えた。

特に怒っているわけではないらしい。

「嶺さん、会に出ないんですか」

「挨拶してさっさと帰ってきた。それより、お前は?」

「留守番ですけど」

「二人の時に敬語で話すのやめろよ」

ちょっと出てこいよ、と人の返事も聞かずに行ってしまう暴君の背中を見て、梢は鍵を持って外に出た。

喫煙所に向かった嶺に着いて、中に入ると煙草を差し出された。要らない、と断ると自然とスーツの内ポケットに戻っていく。

「栄生さんに遠まわしに会には出るなと言われました」

「ほお」

煙を吐き出したと同時に出る言葉。

背もたれに背を預けた梢は、何故か昨日自分に背を預けてきた栄生を思い出した。