優しい爪先立ちのしかた


車を停めて、砂浜に近寄ると、春先でも弱い風に吹かれながら歩く姿が見えた。

何年何十年ぶりに見たかのように、懐かしく感じられた。

「栄生さん」

波が跡をつけた場所を辿るように歩く栄生に声をかける。風と波の音で気付かなかったのか、栄生は驚いたように振り向いた。

「あ……」

「寒くないですか? 風邪ひきますよ」

梢が手を差し出す。それを戸惑うように見て、手を乗せた。

栄生の持っていた靴を持って、車の方へ向かう。その手は冷たく、強張っていた。

車の前まで来て、二人は砂を払った。靴を履いた栄生を見てから助手席を開ける。

それを見て、先程と同じように戸惑った顔をして梢を見る。その理由を知っていた。

「あの、失礼ですが、どちら様ですか?」