優しい爪先立ちのしかた




会場の様子を部屋から見ていた梢は、栄生の姿を見つけては失いを繰り返していた。

流石に表情までは分からないが、戻ってくる気配がないので大丈夫だろう。

窓際に置かれた椅子に座り、天井を仰いだ。

目を瞑ると眠ってしまいそうな気がしたが、逆らうことなく目を閉じる。その瞬間、響くノックの音。

女将かと思ったが、それならすぐに声が聞こえるはず。しかし何の音も聞こえず、もう一度ノックの音が響いた。

体は動かさず、視線だけを扉の方へ向ける。

三回目のノックの後に、痺れを切らしたように扉を蹴る音と威嚇するような声が聞こえた。

「梢! しらばっくれてんじゃねえぞ!」

栄生の義理兄、嶺の怒号で扉が壊れるかと思った。