シーツを掛けて、静かに前髪を梳いた。
「おやすみなさい」
「こずえ、」
服の裾を引っ張られた。ベッドから出た腕が折れそうな程細い。偏食家だからか。
「本に栞挟んどいて。あと、明日の朝食はおじやが良い」
目を閉じたまましっかりと要求した栄生は、その腕を降ろす。
最後の力を振り絞った結果らしい。
梢はその腕をシーツの中に戻す。真っ暗にはせず、一番暗い灯りに設定して、部屋を出た。
先ほど入った部屋に行き、栄生の読みかけの本に栞を挟んで閉じた。襖を閉めて縁側の向こうを見た。桜が散り終わって、一面が白い。
「おじや…」
呟く声が二人以外誰もいない屋敷の中に溶けて消える。
…どうやって作るんだおじやって。



