優しい爪先立ちのしかた



呉葉が席を外したのを見て、栄生は父親に近付いた。

「おめでとう。って伝えておいて」

親子で敬語を遣うことは幼い頃からしてこなかった。

「自分で言った方が喜ぶぞ」

絶対、と付け加えた父親は薄く笑う。子が親元を離れるには早過ぎる歳で、栄生は本家から出て行った。

親としては、姿を見えるだけでも嬉しいらしい。

「絶対嫌。調子は大丈夫?」

「ああ、落ち着いてる。ほら」

栄生の後ろに視線を向けて、振り返る。呉葉が微笑みを浮かべた顔でこちらを見ていた。

「久しぶり。みんな栄生さんが来てくれるの待っていたのよ」

ニコニコとする父親に目を向けてから、言葉を返す。