勿論嶺は乗っていないが、何人か知った顔を見た。手際良く尾形を乗せて、それから恋人を見た。

「連れていきますか?」

高校生に決断を委ねるのか。

スーツの男は、さも当たり前のように尋ねる。栄生は久しぶりに平和ボケした生活から抜き出されたような気持ちになった。

「いえ、一旦家に泊まらせます。尾形のこと、お願いします」

頭を下げる。男は一礼して、すぐに車に戻った。走り屋以上の速度で車は行ってしまった。




「あとからお兄さんから電話があって、そこにカナンがちょうど来たんだっけ」

「恋人、泊まらせたんですか?」

「うん。あのまま連れて行かれたら、売られちゃう気がして」

まだ嶺が何の仕事をしていたのかはっきり分からなかった。