後ろから、梢は薄い肩を叩く。
「いいえ、」
「じゃあ美味しい料理はお土産に持って帰ってこなくちゃ」
「普通に行って帰ってきてください」
「え、つまんなーい」
歯を磨いた栄生は全身鏡を見てからヒールの高い靴に足を入れて溜め息をひとつ。
梢はそんな姿を見て苦笑い。嫌なら来なきゃ良い、と言うのは簡単だが、今の栄生にかける言葉ではない。
「それ新しい靴ですよね、痛くないですか? 歩けますか?」
「大丈夫、行ってきまーす」
これから置いていく大型犬を見る。わん、と吠えるように、「行ってらっしゃい」と見送った。



