その姿を見た栄生はすぐさま膝立ちして、自分のすき煮を梢の器に移す。驚くほどの速さに箸が止まる。
「言えば良いじゃないですか、ベジタリアンですって」
「ベジタリアンじゃない! 鶏肉は食べられるもの。それに食べられないなんて言ったら目が逆三角になる人なの、あの女将さんは」
「結構良い人だと思ったんですけど」
「身内と外部と客との悲しい対応の差よね」
パリパリと生野菜を頬張る栄生を見て、梢は考える。
もしかして、梢と女将の関係を取り持ったのはこの為だろうか…すき煮を食べたくが無い為に…?
すき煮を口に運ぶ。
まさかな、と思いながら器に目を向けると、栄生が梢のマグロの赤身に箸を伸ばしていた。



