優しい爪先立ちのしかた




夕飯は牛肉のすき煮と刺身盛り。

「食後のフルーツは少ししたら持ってきますね」

そう言った女将の目は梢の髪に釘付け。クスクスと笑った栄生は正直に「だって、女将さん。梢のことばっかり見てるもの」と言った。

驚いて梢は噎せ、女将は持っていたしゃもじを落とした。

二人の動揺のしっぷりに栄生の笑い声は続き、その場の雰囲気がふわりと良くなった。そのことに気付いていないのは本人だけだが。

「氷室の家では珍しい髪色なので。失礼しました、ごめんなさいね」

「あ、いえ。栄生さんの付き人になりました、よろしくお願いします」

「まあまあ、こちらこそ。氷室の家は新人さんには厳しいから、お気張りやす」

にこにこと笑顔を残した女将は部屋を出て行った。