優しい爪先立ちのしかた


後ろを見ると、栄生がリモコンをテレビに向けて点けた。振り返った梢と目が合う。

「腹も黒いんですか」

「裏方やってたなら分かるでしょう。身内以外に向けるあの視線」

「ああ」

ここは賛同すべきか迷った。

木製の座椅子に腰掛けたが、背中が固いのが気になるのか何度も座りなおす栄生。座布団を取った梢を呼ぶ。

ここ、座って。

座椅子を退かして、梢を座らせた。それに躊躇いなく背中を預ける。

いきなりだったが梢は微動だにせず。驚いたが、その表情が栄生に見られることは無かった。

鎖骨に後頭部を寄り掛からせる栄生はチャンネルを変えながら言う。

「…だから、起こるわけないと思うけど、もし起こって、梢が一人部屋で、そういう条件が揃って疑われるの面倒でしょう。そういうのは先に潰しておくのが最善」