優しい爪先立ちのしかた


他の人はまだ来ていないのか、息を潜めているのか分からないが、誰にも会わずに部屋まで通された。

「では夕飯は七時になります。何かご用がありましたらフロントまでお申しつけください」

「はーい、ありがとうございます」

パタンと閉まる扉。一瞬、栄生から梢に向けられた視線が残った。

しん、と静かになった部屋の中。

「…すげー見られてました」

「梢の髪、目立つから。遠くに居ても分かる。それに氷室って厳格だから、黒いのばっかなの、頭も腹も」

テーブルの近くに荷物を置いた梢は、窓の外を見た。明日行われるであろう庭園がライトアップされている。

普段は結婚式の二次会に使われたり、一般に公開もしているらしいそれ。