優しい爪先立ちのしかた


声を掛けてから気付く。

髪も黒いし、梢より背が低い。自分でも驚く程判断力を失っている。そして、それ程栄生は動揺していた。

「はい?」

「あの、壱ヶ谷梢見ませんでしたか? 髪の毛が金茶の」

「ああ、梢なら当主の奥様と話されてましたよ」

当主の、奥様?

危険信号である赤がチカチカと点滅する。梢が、呉葉と? 何故?

「どうもありがとう」

「いいえ」

言うと同時に歩き出していた。

呉葉の部屋は、栄生がここに居たときと変わっていなければ父親と近いあの部屋。

何をするつもりだろう。

呉葉の思惑は分からないが、これ以上何かをおこしたくない。

軽くノックをして、返事がないうちに栄生はその部屋の襖を開けた。