優しい爪先立ちのしかた


いやでも実際、と口を開く。

「あれで結構空気が良くなってた。それに分家では壱ヶ谷くんの話が結構流れていたみたいだからな」

「話ってゆーか、噂でしょう? 大人って寂しいね」

「まあそう言うな」

宥めるように言われて、栄生はひらりと手を振った。

「梢が待ってるので、行きます」

お辞儀を一回。

栄生は部屋へ戻ったが、梢と荷物が消えていた。

車に持って行ってしまったかな。それとも連れて行かなかったのを拗ねていたり?

後者は有り得ないな、と考えながら栄生は駐車場まで行って梢の車を見たが誰も居ない。

眉を顰めながら屋敷に戻って、庭の雑草を抜いている後ろ姿が見えた。


「あ、ねえ」