優しい爪先立ちのしかた


栄生の母親、呉葉が微笑む。

「どうぞどうぞ、またな」

同期は梢を置いて廊下を歩いて行く。梢は荷物を持ったまま呉葉と向き合った。

「…すみません、車に荷物を持っていく途中で」

「少しだけだから、部屋まで来てくれるかしら?」

勿論、警戒した。

今栄生の居ないこの状況で、しかも本家で、栄生の母親といえ当主の本妻の部屋に行くとは。

誤解を招きそうだ。

あれほど、梢に対して誤解を生むことを嫌っていた栄生の気持ちを、自分で潰すことはしたくない。

「後で栄生さんと伺うのはいけませんか?」

「栄生さんのことで話があるのよ」

そう言われては、引けなくなる。

当人が現れてくれれば万々歳だが、先程行ってしまったばかりだし、嶺は帰ってしまったし。