優しい爪先立ちのしかた


返事をしない梢の目の前で手を振る。

「起きてる?」

「…起きてます」

最初の内は、栄生が話してくれるまで待とうと思った。

しかし、周りからのこの圧力と警戒。

氷室本家に何があるのか、本家では裏方の下っ端、その次は嶺の所で働いていた梢が知る由もない。

目の前に得体の知れない何かが迫ってきているような気がした。

玄関にある時計が零時を静かに報せる。 

どちらともなく、部屋へ歩き出した。

「明日、昼前には出よう。良い?」

「はい、わかりました」

「あ」

立ち止まる栄生の後に、立ち止まる梢。

何事かとその小さい背中を見つめる。

「どうかしましたか?」

梢の問に首を振る。そして部屋へ入って行った。