優しい爪先立ちのしかた


ペラリと捲ると、蔦植物も見えた。

「家の桜の周り、寂しいからなんか植えて」

「はい? あんな大木の周りにですか?」

セレブの考えることは分からない。

数年そこらでなるような桜の樹ではない。
あの家に住む人間が、あの樹を切らずにずっと見守ってきた。

本家にもあんな良い樹はない。

「植えない方が映えますよ?」

「映えるとか、映えないとかの問題じゃないの」

寂しいか寂しくないかの問題だ。

何を思ったのか分からず、栄生が黙ってしまった。梢は「じゃあ何を植えたいんですか?」聞こうとする。

それよりも前に、栄生は本屋の外のエスカレーターを上ってくる姿に目を留めた。