優しい爪先立ちのしかた




特にあてもなく、栄生は大きいデパートに入って歩き始めた。

本屋に入ったその後ろ姿についていく梢。

「栄生さん、勉強しなくて良いんですか?」

「あーうん、ね」

「俺に勉強は教えられないですから」

一応言っておく。参考書コーナーを通り過ぎて、家庭菜園の本を手に取った栄生がクスクスと笑う。

「天地がひっくり返ってもそんなこと思わないよ?」

「かなり失礼ですね」

「梢が庭のことを私に聞かないのと同じ」

図鑑の表紙を梢に見せた。

春に咲く花、て。

「…何をするつもりですか」

「爆弾埋めるわけじゃないから、そんな警戒しないでよ」

開いたページを覗く。題名通り、春に咲く花がずらりと並んでいる。