大人っていうのはこういうものなんだろう、と群青色に染まる空の下を歩いた。
梢が玄関の引き戸を開けると、栄生の靴が揃えてあった。
台所からガスの音がして急いで戻れば栄生が鍋をかき回していた。肉じゃがの香りがする。
「あ、おかえり」
「すみません、替わります」
「良いよ、もう出来るから」
小鉢に盛りつけられる肉じゃが。居間には梢の分の夕飯も出来上がっている。
やってしまった、と固まる梢の横顔を笑って、栄生は肉じゃがを居間に運んだ。
「俺は、結構です。後で食べるので…」
「早く席に着く」
箸で前の席を差した栄生にはかなわず、梢は座った。
頂きます、とテレビのつかない居間で二人きりの空間は途轍もなく静かだった。



