優しい爪先立ちのしかた




眠っている聖を起こすような度胸は流石に栄生には無かったので、静かに家に居るお手伝いさんに水羊羹を渡しておいた。

嶺の母親の墓は、聖の家から少し遠い場所にあった。

着いて、シートベルトを外した栄生が動かない梢を見た。

ぼんやりと、何かに怯えるような、眼。

その眼を知っている。自分も内に持っているからだ。


「梢」


名前を呼ぶと、現実に戻ってきた梢が栄生の方へ向く。シートベルトを外そうとした手を止める。

「ここで待ってて。すぐに行ってくるから」

「一緒に行きます」

「いいって。疲れてるでしょう」

花と線香を持ってさっさと車を降りる栄生の姿を見て、気を遣わせてしまった、と感じる。

それでも、追いかけることは出来なかった。