優しい爪先立ちのしかた




栄生の屋敷と同様の十六夜宅の引き戸をガラリと勢いよく開けた。

「お邪魔しまーす」

自分の家のように靴を脱いで上がっていく栄生に倣って、梢もあがる。屋敷の中は先客が居るようで、薄い襖の向こうから話し声が聞こえた。

迷わず進んでいく背中は、頼もしく感じて、なんだか可笑しい。

その後ろを歩く大きな犬も、どこか可笑しい。

「聖ー、聖ー」

「聖さんて言うんですか」

「そうそう。聖ー?」

「うるっせえな」

いきなりすぐ横の襖が開いて聞えた声。低く、苛ついたような声。

目を見開いた栄生は笑顔を見せた。

「お邪魔してる」

「見れば分かる。寝てるから起すなって電話で言ったよな?」

銀色の髪が肩口まで伸びている。白い着物をずるずると引きずっている、美形。