優しい爪先立ちのしかた


木陰で黒猫が欠伸をしたのが見えた。黒いから光を吸収してしまうから大変だ、なんて呑気なことを。

「深山さん、帰ってきて良かったじゃないですか」

梢の言葉に振り返った栄生は、眉を顰めていた。

「本当に私がそう思ってるって、梢が思ってるなら、私は梢を一発カマシタイのだけど」

「カマシタイって。お嬢さんが言う言葉じゃありませんよ」

「お嬢さんって、言わないで」

栄生の足が止まる。余程嫌なのか、梢は少し頭を下げて「すみません」と謝った。

その姿を見て、気持ちが冷めた栄生は空を仰ぐ。

「手、繋ぎますか」

その横顔が寂しげに見えて、梢は羊羹を持っていない方の手を差しだした。

「…半分持ってあげる」

反対側に回った栄生は、しょうがない、という風に笑う。