優しい爪先立ちのしかた


そんなわけなかろうと、梢が紙袋を持って辺りを見回す。

連れ去りにでもあったのか。不安を頭にしたと同時に、姿を見つけた。

近くに、制服姿の女子。同級生を見つけて、重たい羊羹の袋は置いて駆けていったのか。

ひとまず安心して、そちらに近付くと栄生が彼女の頬をひっぱたいた。

そして、確信。

こんな所に、何故。

頬を押さえるカナンの後ろに男子も一人。

派手な音を立てたその周りだけ人が避けて通る。何人か振り返ったのを栄生は知らないだろう。

男子の方に詰め寄ろうとした栄生の前に入る梢。勢いで彼のことも殴りかねない。

「梢さん…」

半分泣きそうな声をあげたカナン。それは頬の痛みか、心の痛みか。

梢は兎に角この場を納めよう、と栄生に言う。

「深山さんをひっぱたくのは、帰ってからじゃないんですか」

その言葉に、栄生の瞳から怒気が消えた。