優しい爪先立ちのしかた


うーん、と考える顔をしてから口を開いた。

「同居人の、大型犬」

「え、それ人なの犬なの?」




電車に乗って帰るカナンに手を振って、帰路に就く。

入浴剤の香りと夕飯の出汁の香りがして、今日の夕飯は何か、と考えるようになったここ一週間のこと。

近道として繁華街を抜けて行った栄生の目に一人の人間が留まった。

人間か、犬か判断するものが無いが。

梢が女と抱き合っていた。大通りに顔は向けていないが、あの髪色は梢以外に考えられない。

人には電話掛けるくせに、自分は女と遊ぶなんて。良い御身分だこと。
立ち止まりそうになる足を動かした。

まあ、こんなド田舎で小娘と一緒に暮らすのに、楽しむことなんて何もない。