「でも、そんな急に行っちゃうなんて…。
寂しくなるなぁ」
盆を抱きながら言うミシェルに、ジルは小さな空想から引き戻された。
彼女は寂しそうというより、つまらなさそうな表情をしている。
唇を尖らせて、まるで子供のように拗ねてみせた。
「うん。でもまた帰ってくるから。
そんな顔しないで」
ジルは宥めるように言った。
「けど、…まだローグも帰ってきてないのに…」
その言葉にジルは心をチクンと刺された感じになった。
ローグというのはジルの旅の仲間で、言わば相棒的存在なのだが、今は事情により別行動になっている。
もう何日もリィズ村には戻ってきていない。
ジルはローグの帰りを待つ前に旅立ちを決めたのだった。
その理由の本当のところは誰にも言っていない。
表向きは、村でのんびり暮らすよりも、数ヶ月後に迫った武術大会に出場するための修行だと公言している。
ローグと別行動をしていたこの数日間、ジルはローグのことを無意識に考えるようになっていた。
しかし、ローグのことを思い浮かべると、なぜだか説明もしようのないモヤモヤとした気分に襲われるのだ。
よく分からない自分の感情に、ジルはこのままローグに会うことができないような気がしていた。
それならば、しばらく一人になり、修行を兼ねて旅に出ようと決断したのだった。

