ジルはそこで今日得た情報をまとめてメモにしていた。
そのロイという人物の印象は人それぞれだ。
いつも決まった時間に現れるわけではなく、店に来るのはほんの気まぐれなのだろう。
彼に会ったのは数回だという人が多かった。
人との接触を遮断しているような時もあれば、笑顔を見せる時もある。
バンダナはトレードマークのようなものだろうが、青と決まっているわけではないらしい。
常連客の女性からはひそかに人気者のようだ。
冷めたような態度の中に、時折見せる笑顔がたまらないのだとか。
いつ来るか分からない彼を楽しみにバーに通う女性もいた。
また、ジルは彼のファンだと思われる女性から厄介な勘違いも受けた。
「あなた、ロイの何なの?」敵意をあからさまに表し、ジルにしつこく食い下がる。
とんだ誤解を説明するのに骨が折れるかのようだった。
だが、彼はいつもどこか物悲しげで、一人で店を訪れている。
積極的に会話を楽しむような人物ではないらしい。
何度か隣で杯を交わしたおじさんは、彼はあまり自分のことは話たがらなかったと言う。
そんな話の中でも有力な情報があった。
彼の胸に下げているチョーカーのことを覚えている女性がいた。
ジルが柄に刻まれた文字を見せると、何となく似ている気がする。そう答えてくれた。
また、はっきりとは分からないが、彼はどうやらこの街の東の外れの一軒家に住んでいるらしい。
らしいと言うのは、そのことを直接本人から聞いた者がいなかったからだ。
彼がその方向に一人で帰って行くのを見た者がいたようだ。
賑やかな街から離れ、人が足を運ぶことは滅多にない場所だという。
確認した者もいなかった。
それなら自分が確認してみればいい。
ジルはそう思った。

