主人は黙ったままジルから柄を受け取り、ルーペ越しにまじまじと見入った。
「そう言えば、あいつも同じようなものを持っていたな。しかし、ブラッド・スネークとは…。
お伽話と思っていたが…。いや、しかし…」
ぶつぶつと呟きながら、念入りに柄を調べている。
首にかけたタオルで額の汗を拭い、柄がよく見えるように手元灯りでよく照らす。
「昔話の類は信じておらんかった。実際、目にするのも初めてだ。
これが本物だとしたら、値段は到底つけられん」
ジルがいることを忘れているかのように独り言を続け、裏や表に返しながら何度も何度も同じ文字を見つめる。
ジルはそんな主人を見ながら少し待った。
やがて主人は静かに柄をテーブルの上に置くと、ジルに目線を向けた。
「お嬢さん。ワシにはこれが本物かどうかは分からん。
だが、あいつが…、あいつはブラッド・スネークなのか?」
「それが知りたいんですよ。彼が何か関係しているのか?
彼もこの首飾りを持っていたでしょう?」
「あぁ。確かに見覚えはあるが。
しかし、本物かどうかは…。あいつはそんな盗賊には見えねぇし…。まぁ、いい品を持ってくることは確かだが……。だけどなぁ…」
ぶつぶつと独り言を続ける主人にジルは顔を近づけた。
「いいから、彼の居場所を教えてください」
真剣な眼差しの中に苛立ちの色が混ざっているジルに少したじろぎ、
「い、居場所なんて知るわけないだろ。
あいつはそんとに客として来るだけなんだから…」
ドンッ!
まだごちゃごちゃと言葉を並べる主人に、ジルはマホガニーのテーブルに拳を叩きつけた。
その音で主人は体をビクつかせる。
ジルはテーブルに拳をついたまま更に顔をゆっくりと近づけた。
はっきりしない男は好きになれない。
「名前も知らないって訳じゃないんでしょ」
主人を睨みつけ、低い声でジルは凄んだ。

