歩きにくいとまではいかないが、朝の人通りとしては多い方だと思った。
シェリーに渡された地図に従って、メインストリートから右へ角を曲がると、傍らに店を構える防具店で、感じのいいマントが女性用の革アーマーと共に飾られているのが目に入った。
以前、ジルが使っていたものとよく似ている。
それはある獣人との戦闘で、破られて使えなくなってしまった。
少し前の出来事なのに、もうかなり昔に起きたことのように思えた。
まだ夏も始まったばかりだ。
今の季節、特に必要はないと思うが、今後のことを考えると早めに新しいものを購入すべきだろうか。
飾られたマントに目を奪われ、そんなことを考えながら歩いていると、ドンッと左肩に衝撃を感じた。
よそ見をしていた為か、人にぶつかってしまったらしい。
「あ、ごめんなさい」
ジルは慌ててそちらを向いた。
ぶつかった男は長身で黒髪にバンダナを巻いた、目つきの悪い男だ。
ジロリとジルを睨みつけると、何事もなかったように、ジルの脇を擦り抜けて急ぎ立ち去っていく。
感じの悪い人だ。
その男の態度に少しムッとしたジルだったが、擦れ違う瞬間に彼のはだけた胸元から何かがキラリと光るのを眼の端に捉えた。
銀製品だろうか、大きなトップのついた少し長めのチョーカーが上着から見え隠れして揺れている。
一瞬のことだったが、ジルの胸に何か警報が鳴ったように思えた。
トップについた飾りが、柄に描かれていた【B】と【S】のマークに似ている。
そんな気がした。

