ザックは言い返しができないようだったが、憤りの眼で彼女を睨んだ。
「あの、二人とも、落ち着いて」
ジルは二人を宥めた。
思いも寄らない展開の始まりに責任を感じる。
自分は二人を喧嘩させたかった訳ではない。
二人の間に割って入ろうと、カウンターの椅子から腰を浮かせたとき、足元で何かが転がる音がした。
転がったものに目をやる。
あ……。
ジルはそこでまだ二人に見てもらっていない物があったことを思い出した。
その物を拾い上げ、カウンターのテーブルの上に置く。
「それは、何ですか?」
店主の方が先にジルに問いかけた。
「うん。ヤツらの物なんだけど」
言いながら布に包まれた“それ”をジルは広げた。
布の中から現れた物、それはヤツらが使っていた湾曲刀の柄の部分だった。
部屋に入ったときに、持ち運びやすいように柄の部分だけ取り外したのだ。
柄には不気味な形で彫られた【B】の文字と、【S】形に絡みつく蛇の模様が描かれている。
何度見ても気味が悪いのに変わりはない。
「なんだか、気味が悪い模様ですね」
同じ印象を受けたのか、彼女はそう漏らした。
手に取るのも躊躇してしまうのだろう。
少し距離を取って柄を眺めている。

