一通り話を聞き終えると、ザックは徐に溜め息をついた。
「君もか…」と呟くように言うと、ザックはウイスキーをぐいっと呷った。
「あの…。だから、ツラいことかとは思いますが、何か心当たりがあれば教えてほしいんです」
「心当たりなんかないよ」
懇願するジルに対して、ザックは冷たく言い放った。
「心当たりがあれば、僕がとっくに…」
彼はそこまで言うと、言葉を閉ざし、下唇を噛んで俯いた。
どうすることもできない、自分への苛立ち。
ジルも黙るしかなかった。
「彼は、妹さんを連れ去られたんです」
カウンター越しに、店主が口を開いた。
声につられて彼女へ視線を向ける。
「おい」とザックがそれを咎めた。
しかし、彼女は口を噤むことをしなかった。
「お友達と旅行に出かけた、その日の朝だったそうです」
「おいっ」
さっきよりも強く、ザックが声を荒げる。
「その話はよせ」
彼には思い出したくもない悲劇なのだろう。

