カップル客は少し前に勘定を済ませて出ていった。
店も既に客引きの看板の灯りを消し、閉店している。
そんなパブの店内で、ジルとザックと呼ばれた男、そして店主の彼女だけがオレンジ色に燈された明かりに包まれ、静かに佇んでいた。
彼女は少し罰の悪そうな顔で、ザックを覗っている。
彼女は以前に何かを聞いていたのだろう。
思いつきとはいえ、話題を出した自分に責任を感じているようだ。
彼を傷つけてしまったかもしれない。
そんな自責の念が感じられる。
「それで」
ザックが、新しく注がれたウイスキーのグラスを弄びながら口を開いた。
「君は、僕になにか用があるのかい?」
手に持ったグラスに視線を泳がせ、グラスを何度か傾ける。
琥珀色の液体が揺れ、カランと氷が小さく音を立てた。
「実は…」
ジルは深呼吸すると、昨日の出来事を二人に語り始めた。
自分が旅をしている冒険者であること。
昨日この街へ向かう途中で、馬車が襲われたこと。
そして、その時に友人が一人、ヤツらに連れ去られたこと。
ジルはどうしてもヤツらを見つけ、友人を救いたいことを訴えた。
だから、もし同じ目に遭ったことがあるなら、ヤツらに関する情報がほしい。
どんなことでも構わない、と。

