「君たち、…大丈夫、か…」
不意に呼び掛けられ、ダレンとジルは振り返った。
馬車の前方から御者の若者とおじさんがヨロヨロとした足取りで近づいてくる。
彼らも殴られて意識を失っていたのだろうか…。
「大丈夫ですか?」
ジルが素早く駆け寄って、ふらついた体に手を貸してやる。
「あぁ…。だけど…」
若者は落胆の声を上げて、奇襲に遭った馬車を見つめた。
材木で作られた馬車は、先ほどの襲撃で真新しい傷がつけられ、片側の扉は外れかかっている。
ダレンが投げ飛ばされてぶつかった時に、パキンと音を立てたのを思い出す。
後部につけられた両開き扉も、乱暴に扱われた痕跡を残し、積み込んだ荷物が乱雑に散らかっていた。
村の女たちか一生懸命に拵えた織物や、ダレンの店から持ってきた動物の毛皮…。
最近収穫した野菜に果物。
それらが幾つかなくなっている。
畜生…。
ダレンはドンッと馬車の床を叩いた。
悔しさをどこにぶつけていいか分からず、その果ての行動だった。

