…レン…、ダレン…。ねぇ、大丈夫…?
遠くから声がする。
「ねぇ、ダレン?
大丈夫? 起きて」
幻ではない。
確かに聞こえる。
ペチペチと頬を叩く何かで、ダレンはゆつくりと目を覚ました。
視界は朧げだったが、自分を呼ぶ声と頬の刺激は次第にはっきりとしてくる。
「ねぇ、大丈夫?」
声のする方に顔を向けると、自分を覗き込む人影があった。
ダブって見えていた映像が重なり、その人物がジルだと分かると、ダレンはハッとした。
「ジルっ」
うっ………。
慌てて跳ね起きると、不快なほどに嘔吐感が込み上げ、思わず手で口を押さえる。
「大丈夫なの?」
ジルが背中を摩ってくれると、少しマシになった気がした。
「あぁ…。それより」
ズキズキと痛む頭部を押さえ、記憶を辿る。
馬車が覆面をしたヤツらに襲撃されて、そして…。
ミシェルが連れ去られた…。
「ミシェルは?」
思い出してジルに問うと、彼女は辛そうにダレンから視線を外した。
「途中まで追ったけど…」
ジルはそう呟くと目を伏せた。
続きをら聞かなくても、結果は理解できた。
どこへ行ったか分からない。
そういうことだろう。
自分の不甲斐なさに腹が立った。
無意識に握った拳に力が入る。

